最近はマッチングアプリを通じて新しい出会いを探すことが一般的になりました。一方で、出会いの機会が増えるにつれて、利用者同士のトラブルも増加傾向にあります。思わぬことで相手から訴えられたり、法的な請求を受けたりして、どう対応すればよいか分からず一人で悩んでいる方も少なくありません。
今回は行政書士の視点から、アプリ利用時に知っておくべきリスクと、もしもの時の対応についてお話しします。
この記事を読んでいただくと、マッチングアプリで起こりやすい法的トラブルの具体的な内容が分かります。また、相手から訴訟の準備を伝えられたり内容証明郵便が届いたりした際に、何をすべきで何をすべきでないのかという具体的な行動指針を学べます。さらに、行政書士がどのような書類作成を通じてあなたの権利を守るお手伝いができるのか、その役割についても詳しく解説していきます。
ここで、実際によくあるトラブルを想定した架空の事例をご紹介します。
ある会社員の男性は、マッチングアプリで知り合った女性と数ヶ月間ほど親密な交際を続けていました。男性は真剣に交際しているつもりでしたが、仕事の忙しさから徐々に連絡が疎かになり、最終的に別れを切り出しました。すると後日、女性側から、結婚を前提とした交際だったのに一方的に破棄されたとして、精神的苦痛に対する慰謝料を請求する内容証明郵便が届きました。
女性側の主張によれば、交際中に男性から結婚を匂わせる言葉があったため、今の仕事を辞める準備まで進めていたと言います。一方の男性は、将来の話を世間話程度にしかしておらず、婚約した認識は全くありませんでした。しかし、届いた書類には高額な慰謝料の支払いと、期日までの回答が求められていました。男性は、自分の何気ない一言が法的な問題に発展したことに驚き、どのように反論すべきか、あるいは支払いに応じるべきか混乱してしまいました。
このようなケースでは、言葉の解釈や事実関係の捉え方が双方で大きく異なることが多く、早期に適切な対応をしないと泥沼化する恐れがあります。
ここで、トラブルの際によく耳にする二つの専門用語について解説します。
一つ目は内容証明郵便です。これは、いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の手紙を出したのかを日本郵便が証明してくれる特殊な郵便です。これ自体に裁判の判決のような強制力はありませんが、法的な意思表示を確実に行ったという証拠になります。相手が本気で法的措置を考えている場合に、まずはこの形式で通知を送ってくることが一般的です。
二つ目は貞操権侵害です。これは、相手の自由な意思に基づいた性的自己決定権を、不当な手段で侵害することを指します。例えば、既婚者であることを隠して独身だと偽り、相手と性交渉を持った場合などがこれに当たります。マッチングアプリでは、独身を装った既婚者とのトラブルでこの言葉が使われることが非常に多くなっています。
相手から訴えられたという言葉を聞くと、すぐに裁判所へ行くイメージを持つかもしれませんが、状況によって段階が異なります。
実際に裁判所から訴状が届いた場合は、すでに民事訴訟が開始されています。裁判所からの書類は特別送達という特殊な方法で手渡されるため、これを受け取った場合は無視することは許されません。指定された期日までに答弁書を出さないと、相手の言い分をすべて認めたことになり、敗訴してしまいます。
一方で、多くの場合はその前段階として内容証明郵便による請求が届きます。これは示談交渉の入り口であり、書面で謝罪や金銭を要求される段階です。ここで適切な回答を送ることで、裁判沙汰になる前に解決できる可能性が残されています。また、弁護士や警察から連絡が来ることもあります。名誉毀損やストーカー規制法に抵触する可能性がある場合は、刑事事件に発展する恐れもあるため、より慎重な対応が求められます。
マッチングアプリ特有のトラブルは大きく分けて三つのパターンがあります。
一つ目は男女の関係にまつわるものです。先ほどの事例のように、婚約の成立を巡る争いや、既婚者であることを隠していたことによる慰謝料請求です。特に行政書士としては、証拠となるメッセージのやり取りを整理し、事実関係を明確にする作業で貢献できます。
二つ目は金銭に関するものです。交際中に投資を勧められたり、個人的に現金を貸したりした後に連絡が途絶えるケースです。最初は善意の贈与だと思っていたものが、後から騙されたとして返還を求められるトラブルも散見されます。
三つ目は名誉毀損やプライバシーの侵害です。別れた後に腹いせとして、相手の顔写真や勤務先情報をSNSに投稿したり、中傷するようなメッセージを送り続けたりする行為です。これらは不法行為として損害賠償の対象になります。
トラブルを未然に防ぐためには、日頃からの意識が大切です。
まず、メッセージや言動には責任を持つ必要があります。相手の気持ちを動かすために安易に結婚しようといった言葉をかけたり、将来を約束するような表現を多用したりすると、後で法的な責任を問われる材料になりかねません。また、写真や自宅の場所、勤務先といった個人情報は、信頼関係が十分に築けるまで慎重に扱うべきです。
さらに、証拠保全の意識も重要です。もし相手から不当な要求や脅迫を受けていると感じたら、その時点でのアプリ内のやり取りをスクリーンショットで保存しておいてください。退会してアカウントを消してしまうと、後から自分の正当性を証明する証拠が消えてしまうことになります。
もし自宅に内容証明郵便や訴状が届いたら、まずは落ち着いてください。
絶対にやってはいけないことは、何もせずに放置することです。放置は相手の主張を認めたと判断される材料になりますし、誠意がないとして相手の感情をさらに逆撫でしてしまいます。また、焦って相手に電話をかけ、感情的に反論するのも危険です。電話での会話を録音され、さらに不利な証拠を増やしてしまう可能性があるからです。
まずは、書類がいつ届いたのかを記録し、回答期限を確認してください。その上で、過去のメッセージやプレゼントの履歴、銀行の振込履歴など、関連する資料をすべて集めます。自分の記憶だけでなく、客観的なデータに基づいて状況を把握することが、解決への第一歩となります。
行政書士は、こうしたトラブルにおいて書面作成の専門家として活動します。
具体的には、届いた内容証明郵便に対する回答書の作成を行います。法律の根拠に基づき、こちらの言い分を論理的に整理した文書を作成することで、不当な請求を退けたり、過大な慰謝料を適正な額まで減額交渉する土台を作ったりすることができます。また、話し合いがまとまった際には、後日の蒸し返しを防ぐための示談書や合意書の作成も行います。
ただし、行政書士は裁判の代理人になることはできません。もし話し合いがつかず、本格的な裁判対応が必要になった場合には、信頼できる弁護士へ繋ぐ役割も果たします。まずは書類作成の専門家である行政書士に相談することで、現状を冷静に分析し、どの程度の法的リスクがあるのかを把握することができます。
マッチングアプリは便利なツールですが、顔の見えない相手とのやり取りには常にリスクが伴います。万が一、法的トラブルに巻き込まれたり、訴えられたりした場合は、初動の対応がその後の運命を左右します。
感情的になって相手と直接やり合う前に、まずは事実関係を整理し、専門家の意見を仰いでください。内容証明への回答一つで、事態が沈静化することもあれば、逆に悪化することもあります。当事務所では、マッチングアプリに起因する様々なトラブルに関する書面作成や相談を承っております。一人で抱え込まず、まずは現在の状況をお聞かせください。